なかとさ美術館

なかとさ美術館

旧中土佐町立美術館は、町田菊一氏の850点超のコレクションと志を礎に誕生した。
しかし津波浸水区域に位置しており、温湿度管理・収蔵機能にも限界を抱えていた。
次代への継承と安全性を両立するため、新たな美術館を計画するに至った。
計画は、久礼のフィールドワークから着手した。市場の気配、路地のリズム、家並みの素材感を観察し、なかでも西岡酒造の煉瓦塀が強い示唆を与えた。久礼をはじめ高知の伝統的街並みでは、煉瓦が長年にわたり建築素材として定着している。四万十流域の材木を関西へ運び、復路はバラスト兼建材として煉瓦を積み戻した交易史が背景にあり、煉瓦は風景の地層として継承されてきた。
一方、美術館の高台移転は南海トラフ地震への備えとして必然であり、同時に「元のまちなみの記憶をどう受け渡すか」という課題とも向き合った。

 

なかとさ美術館
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敷地は黒潮本陣の駐車場跡地。南東に広がる久礼湾と大津崎への眺望を最大限に活かしつつ、建物は、黒潮本陣と直交する軸線上に建物を配置。軒高を抑え、隣接コテージとの距離と視線に配慮しながら、切妻屋根を基本としたプロポーションで、周囲のスケール感との連続性を保った。

屋根仕上げには、黒潮本陣との調和を意識し、石州瓦(いぶし調)による一文字葺きを採用。
重心の低い軒先と陰影のある屋根面が、久礼の町並みや既存施設との風景的文脈に応答する。

なかとさ美術館
なかとさ美術館

外内装には、イギリス積の素焼き煉瓦・土佐漆喰を用い、西岡酒造の煉瓦塀に代表される漁師町の象徴性と素材感を再構築。
こうした意匠のひとつひとつが、町の歴史と記憶の堆積として、空間ににじむことを意図している。

なかとさ美術館
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なかとさ美術館
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外空間から美術空間へと絞り込みながら、来訪者の身体感覚と意識をやわらかく導く動線を計画した。
空間の奥行と密度に応じて、視覚と聴覚は徐々に鎮まり、感性が澄んでいく構成としている。

なかとさ美術館
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太平洋を望むカフェテラス

なかとさ美術館
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2階にはワークショップや子どもたちのキッズコーナーを備えたスペースを配置。
天井には四万十桧のルーバーをアーチ状に架構。照明・配線などの機能を内包しながら、吸音性・調湿性を高め、展示空間としての集中力と余白を両立している。
魚の骨格や漁船の船底を思わせる架構意匠は、この地に根ざす構造美の抽象であり、空間に詩性を添えている。

なかとさ美術館
なかとさ美術館

所在地:高知県中土佐町
構造:RC造一部鉄骨・木造2階建て
延床面積 610.45㎡
竣工:2025年7月
施工:響建設
用途:美術館