森の○○な家

切株のように、森の中に佇む
この地が持つ自然の魅力を見つめ直し、森と人との新たな関係を育むことを目的とした建築的提案である。
森の中に静かに残る切株のイメージを建築に転写し、外観は円柱形の平面と、周囲の山々の稜線に呼応する緩やかな円錐形の屋根で構成されている。
建築が景観を支配するのではなく、あくまで風景に溶け込むことを目指した。
建物の規模は小さいが、そこに込められた空間の密度と思想は濃い。
人が自然と接する場を、建築がどう担えるか――という問いに対して、過剰に語らず、静かに応答する。

森の○○な家

高知県いの町、仁淀川源流域に広がる「グリーンパークほどの」。
豊かな森林資源と美しい渓流に恵まれたこの場所は、かつて林業体験やキャンプの拠点としてにぎわいを見せていたが、
従来の維持管理体制だけでは持続が難しくなっており、施設のあり方そのものが問われる転換期を迎えている。
単なる“維持”ではなく、地域資源としての価値を再定義し、新たな使い方や意味づけを模索することで、
建築や空間が次の時代の公共性を担う。こうした状況に向き合いながら、私たちはこの場所の未来に向き合った。

森の○○な家

この建築の名称にある「○○」は、特定の言葉をあえて定めていない。
訪れた人が自身の体験を通して、この場所にふさわしい意味を自由に見出してほしいとの想いから出た答えである。
それぞれの感覚や記憶によって形づくられる「○○」こそが、この建築を完成させる最後の要素である。

森の○○な家

レシプロカル構造と手仕事の架構
この建築の最も特筆すべき技術的特徴は、屋根架構にレシプロカル構造(相持ち構造)を採用している点である。複数の部材が互いに順次支え合うことによって構造を自立させる、古くから世界各地で見られる構法を応用した。

森の○○な家
森の○○な家

レシプロカル架構で用いた16本の檜丸太は、地元いの町吾北の山林から伐り出し、乾燥期に伐採・皮むきを行い、
一本一本を手作業で加工。
屋根の頂部に向かって放射状に組み上げることで、内部に柱や梁を設けることなく、3.5メートルの吹き抜け空間を実現している。
頂部の仕口加工は実寸モックアップを繰り返し検討し、最終的には現場にて微調整を加えながら手仕事で組み上げられた。

森の○○な家

構造としての合理性に加え、この架構は、材料が互いに支え合って成立するという象徴的なメッセージも含んでいる。
それは、森と人、人と人との関係性をつなぎ直す建築としてのあり方を体現しているとも言える。

森の○○な家

森とつながる空間構成
「木の洞(うろ)」に棲む小動物の感覚をヒントに、空間全体を柔らかく湾曲させることで、まるで巨木の内部に入り込むような体験を意図している。
玄関はその「洞の入口」にあたる位置に設けられ、木の内と外をつなぐ“境界”としての空間となっている。

森の○○な家

ジブリ映画『となりのトトロ』に登場する楠の巨木のように、自然の中にひっそりと存在する“守られた場所”の印象を来訪者に与える。

森の○○な家

木材の持つ質感や不均質性と相まって、直線的・人工的な空間とは異なる、どこか身体的な親密さを生む。
あえて直線を避けて曲面を用いることで、視線や動線が自然に誘導され、空間全体に動きとやわらかさが生まれている。

森の○○な家

建物中央の吹き抜けとトップライトによって、上方向への開放感を確保。
屋根頂部から差し込む光は、時間や季節によって表情を変え、空間に静かなリズムをもたらす。
特に夜間には、トップライトを通して見える星空が、ここでしか得られない象徴的な体験となる。

森の○○な家
森の○○な家

南面には大開口を設け、外の木立をフレーミングするような構成。
開口部から望むのは、檜や杉を中心とした地元の樹林。床の張り方向や開口の縁取りが、自然と視線を屋外へ導き、室内にいながら森と連続するような感覚を与える。

森の○○な家
森の○○な家

使用された主な材料は、地域に根ざした自然素材が中心である。
また、屋根の勾配や軒の深さは、多雨多湿な高知の気候に対応した「雨仕舞い」への配慮であり、建築が風土と共存する姿勢。

木材はあえて節や枝付きの状態を残すなど、自然のままの質感を活かしており、素材の経年変化によって建築が風景に馴染んでいくことを期待している。

森の○○な家
森の○○な家

木部の塗装には、ドイツ製の自然塗料「リボス(LIVOS)」を採用した。
主成分に亜麻仁油を用いた植物由来の自然塗料であり、石油系化学物質を含まず揮発性有機化合物(VOC)も極めて低いため、環境負荷が少なく、屋外への流出や室内空気への影響にも配慮されている。

森の○○な家
森の○○な家

仕上作業は、地元の観光協会や高知工科大学生と連携したワークショップ形式で行われた。
参加者が実際に建材に触れ、塗料の性質や素材との相性を学びながら、自らの手で塗装・施工に携わったことは、建築を「使う」「見る」だけでなく「つくる」プロセスに開く貴重な機会となった。
このような協働の取り組みは、建築を媒介とした学びと地域参加の実践として、今後の建築の公共性や教育的役割を考える上でも示唆に富んでいる。

森の○○な家

地域の風景を次世代へつなぐ
本プロジェクトが位置する「グリーンパークほどの」は、仁淀川やにこ淵といった“仁淀ブルー”の源流域にあり、その清らかな水の背景には森の存在がある。
森林は水源であり、風景であり、暮らしの根幹である。
この建築は、その価値を再認識し、未来の世代に向けて伝えるための小さな装置として機能している。
人口減少が進み、山の維持すら難しいこの時代において、規模や経済性だけでは語れない建築の価値を示す好例といえるだろう。
手を動かし、素材に向き合い、風景に寄り添いながら、未来のために今できることをかたちにする――
「森の○○な家」は、その静かだが確かな意思を、空間として示している。

所在地:高知県いの町
構造:木造平屋建て(ロフト付き)
延床面積 26.14㎡
竣工:2025年4月
施工:のりぞう工務店
用途:宿泊施設